心不全は主要死因であるが、心不全発症に至る分子メカニズムはよく分かっていない。最近、心不全を含む循環器疾患のリスクとして肥満およびメタボリックシンドロームが注目されているが、これらのリスクがどのようにして心不全を引き起こすかはよく分かっていない。我々はこれまでに、心血管系及び代謝系において、特に血管平滑筋細胞並びに膵β細胞において遊離脂肪酸が細胞機能障害を引き起こすことを明らかとしてきた。そこで本研究計画では、飽和遊離脂肪酸が心筋細胞並びに間質に存在する線維芽細胞や炎症細胞に作用し、心不全を惹起するという仮説を検討することによって、肥満・メタボリックシンドロームにおける心不全発症の分子機構を明らかにすることを目的として検討を進めた。その結果、遊離脂肪酸は心筋にマクロファージを集積させ、炎症性サイトカインの発現を誘導することが明らかとなった。また、遊離脂肪酸を長期投与する実験法を確立することにより、遊離脂肪酸の心筋機能への影響を検討した。さらに、培養心筋細胞を用いて、遊離脂肪酸に対する応答メカニズムの解析を行った。以上の結果から、心筋の脂肪毒性においては慢性炎症が鍵となる働きをすることが考えられる。今後、糖尿病等の代謝異常との相乗作用についての検討が重要と考えられる。
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