この1年間、我々は、物質が流れを作るメカニズム、特に、ある有限領域から粒子が漏れ出てくることにより作られる流れの振る舞い、すなわちエスケープ現象に注目して研究を進めてきた。エスケープ現象は、粒子の流れを伴う非平衡現象として、量子性やカオス性などの力学的特性が流れにどのように反映されるかといった観点から興味深い研究対象となっている。 そのようなエスケープの量子力学的モデルとして、我々は、磁束の通り抜けた1次元的なループを考え、初期時刻においてこのループに閉じ込められていた電子が、その後このループに接続された導線を通してエスケープしていくモデルについて考察した。この系を量子散乱理論的な手法を用いて解析することにより、我々は、初期時刻においてループ内に閉じ込められていた電子のうちで時刻tにおいてもこの領域に残っている割合P(t)を計算し、この量P(t)の時間的振る舞いが磁束の値に強く依存すること、また量P(t)が長時間経つと冪的に減衰することなどを見いだした。 他の系として、我々は、半無限1次元空間における量子力学的な2粒子系のエスケープの考察も進め、粒子の有限領域からのエスケープの振る舞いが粒子の統計性の違いによって根本的に異なることを見いだした。また、これらの2電子がクーロン的な相互作用する場合について数値的に解析し、P(t)の時間依存性に指数関数的減衰が現れることを示した。我々のクーロン相互作用する2粒子系は、それが有限領域に閉じ込められている場合にカオス的に振る舞うと考えられており、その意味で本研究の主題に沿った研究であると考えられる。
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