本年度(平成23年4月~平成23年9月)は前年度の成果をもとに、ダイヤモンドpn接合のキャリア輸送過程を明らかにすべく、容量電圧(CV)特性、順方向電流立ち上がり付近の電圧電流(IV)特性を精査した。また二次イオン質量分析(SIMS)によりpn接合の不純物プロファイルを測定し電気測定結果とあわせてキャリア輸送特性を考察した。なお、研究計画に記載したpin接合の形成による電気特性改善の試み、電極特性評価に関しては、JSPSフェローの採用期間が平成23年9月までであった上に平成23年3月11目の震災の影響で実験を十分にできず、pin接合の形成までにとどまり、電気特性に関する十分な結果を得られなかった。SIMS評価に於いて、n型層のリン濃度は1E19/cm3程度、p型層のホウ素濃度は3E17/cm3程度、膜厚はそれぞれ1ミクロン程度で、pn接合界面の不純物プロファイルは極めて急峻であることが分かった。これはCV測定から得られた1/C2プロファイルの直線性と一致し、さらに求められる拡散電位とその温度依存性からは良好なジャンクション形成ができているといえる。一方、低電圧領域(オン電圧手前の領域)の指数関数的電流増加は2段階の立ち上がりを見せた。理想因子はそれぞれ室温から700Kの範囲で12~4および5~2程度に変化し、不完全な接合界面での理想的とは言えない電荷輸送が見られた。1E19/cm3のドナー濃度を持つn型層では電子のホッピング伝導が支配的であり、最近接のドナー間をそのエネルギー準位に於いてホッピングしていると考えられる。従って電子の状態密度は伝導帯底ではなくギャップ内のドナー準位付近に局在していると仮定した場合、界面での電子注入過程に於いて深い電子捕獲準位に捕獲される過程が介在しやすくなり、電子のトンネリングが関与する電荷輸送に至ると考えられる。
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