研究概要 |
Dr.Ducrosは、フランス、トゥルーズ大学に提出した博士論文で、「日本の結婚における贈与交換の諸相」について研究した。結婚の豪華さで知られる愛知県の事例などを中心とした研究であるが、Dr.Ducrosは、日本の結婚にともなう贈与交換の背後にある非物質的な相続-家や祖先観念など-にも注目した。こうした観点から、現代日仏家族問題を、比較検討するのが研究の目的である。' Dr.Ducrosは平成22年度の研究で、日本における相続制度に地域的変異と時代的変化を整理する研究と(長子相続以外に末子相続や姉家督など)、フランスにおける「家族の記憶」をめぐる研究史(M.Halbwachs、A.Gotman、B.Le Wita, J.Coenen Huther, I.Bertaux-Wiane, A.Muxel)を整理した。後者の研究を通じて、「家族の記憶」分析の諸カテゴリー(女性の記憶、男性の記憶、男女共同の記憶等性別による記憶の違いや、宝石や、家具、賞状や勲章などモノによって変わる記憶など)が、取り出された。それはフランス社会の事例分析に基づく。これは中国各地[牛モンゴル、東北、山東省、遼寧省]やアフリカからの留学生が多い研究室での発表であったため、それぞれの地域・文化による記憶の特殊性の議論を刺激し、こうした観点からの比較文化研究の可能性も検討された。 嶋田はこれに対して、人間の成長における記憶の役割は、家族以外の、地域や、家族を超えた職業集団の記憶もあることを指摘して、Dr.Ducrosはこうした観点も考慮しながら、日本における非物質的な文化や宗教思想の相続の個別研究にあたることにし、その第一ステップとして、ある天理教大教会の教会長の自己形成過程の調査にはいった。 嶋田はこのほか、『黒アフリカ・イスラーム文明論』(創成社)を上梓したが、ここではアフリカの伝統的宗教と外来のイスラームとの混交・排斥・改革などが問題になった。これは稲作文化に依拠する固有信仰に外来の仏教思想が伝来してやはり複雑な混交・排斥・改革をくりかえした日本の宗教事情理解にも役立つ。このいように異なった宗教的伝統をどのように引き継ぐのかも、あらたな課題となった。
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