本年度は3次の非線型項を持つシュレディンガー方程式の定常解の安定性について研究した。特に、定数に平面波摂動を加えた初期値に対して、解がどのように振る舞うかを解析した。この初期値に対して解が存在することを報告者は既に得ていたが、その安定性には、非線型項の係数の符号と、初期値の大きさ、そして摂動平面波の波数の大きさが関係していることが判明した。従来の研究[Gustafson-Nakanishi-Tsai(2009)]では、非線型項の符号が負の場合が考察されていた。その場合には、初期値の大きさや摂動平面波の波数の大きさには無関係に解がある種の漸近安定性を満たすことが示された。これに対し報告者は非線型項の符号が正の場合を考察した。この場合には、初期値の大きさと摂動平面波の波数がある関係を満たすときには数値実験的に不安定になることが知られていた[Ablowitz-Chakravarty-Herbst(1995)]。しかし、それらがその関係を満たさない場合に、数学的に解が時間局所的には安定になるという結果が得られた(現在は投稿中である)。この結果は非線型光学における自己集束という現象の数学的理解に適用できる。
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