本研究課題は神経系を構成する細胞数の少なさに着目し、ホヤ幼生に存在するニューロンの機能、特に遊泳運動に関するニューロンの機能を解明することを目標にしている。本年度は生きたままニューロンを可視化したトランスジェニック系統を用いた神経系の構築過程の解析、ニューロンの分化メカニズム解析、遊泳運動に異常のある突然変異体を単離することを目的とした突然変異体の作製を行った。 ホヤ幼生の各種神経伝達物質作動性ニューロンにおいて、蛍光タンパク質Kaedeを発現するトランスジェニック系統を作製した。これらのトランスジェニック系統を用いて、成体の神経系が構築される過程について解析を行った。その結果、幼生の中枢神経系に存在する細胞のうち、ニューロンほとんどが消失してしまうが、グリア細胞である上衣細胞は維持され成体の中枢神経系を構築することが明らかにした。 特定のニューロンで発現する転写因子の単離と機能解析を行い、ドーパミンニューロンの分化に必須の転写因子としてPtf1aを同定した。Ptf1aの機能を阻害したところ、ドーパミンニューロンが完全に欠損した。Ptf1の機能を阻害した幼生において遊泳運動を観察したところ、遊泳運動の頻度が低下しており、ドーパミンニューロンが遊泳運動に関与している可能性が示唆された。 Gal4エンハンサートラップ系統のスクリーニングを行い、神経系でGal4を発現するエンハンサートラップ系統を多数単離した。このGal4エンハンサートラップ系統において、トランスポゾンの挿入箇所を決定したところ、約83%の確率でエキソンや遺伝子のごく近傍にトランスポゾンが挿入されており、突然変異体の可能性が高いことが示された。
|