(1)空間反転対称性の破れた超伝導体である(a)Mg_<10>Ir_<19>B_<16>と(b)CePt_3Siにおいて電子状態の実験的研究を行った。 (a)Mg_<10>Ir_<19>B_<16>においては、軟X線光電子分光測定、軟X線発光分光測定、及びレーザー光電子分光による超伝導ギャップの高精度測定においてデータの解析を行った。軟X線を用いたバルク電子状態の測定結果は、スピン軌道相互作用を取り入れたバンド計算と良い一致を示す事を見いだした。また超伝導ギャップの測定結果では、マクロ測定などから示唆されていた2ギャップ状態は実験結果を説明できず、シングルギャップを仮定した解析と矛盾しないことを見いだした。(b)CePt_3Siにおいては、放射光を用いた角度分解光電子分光実験をおこなった。バンド分散は観測されなかったが、角度積分型の測定において共鳴光電子分光のデータを得る事に成功し、f電子がフェルミ準位近傍に存在することを見いだした。 (2)空間反転対称性の破れた超伝導体と同じく「非従来型超伝導体」として注目される重い電子系超伝導体URu_2Si_2において、レーザーを用いた超高分解能角度分解光電子分光を行った。この物質は超伝導転移温度より上の17.5Kにおいて未解明の二次相転移を持つが、高精度の角度分解光電子分光測定により相転移の前後におけるバンド構造の変化を明瞭に観測する事に成功した。この事実は、超伝導前駆現象の理解を目指した一連の研究に指針を与えるものであり、重要な結果と考えられる。 (3)角度分解光電子分光実験における大量のデータを半自動的、高速に処理するためにIgor Proを用いたデータ処理用のプログラム開発を行った。特に、バンド分散やフェルミ面のマッピング等の作業において汎用性の高いプログラムの開発に成功した。
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