空間反転対称性の破れた超伝導体と同じく非従来型超伝導関連物質であるURu_2Si_2を中心に研究を行った。昨年度、URu_2Si_2における角度分解光電子分光により重要な成果が得られていた事から、更なる発展的研究を行った。今年度の研究実績の概要を以下に示す。 (1)URu_2Si_2における隠れた秩序相転移に伴う電子状態の変化を検証するために、紫外レーザー光を用いた角度分解光電子分光実験を行った。フェルミ準位を横切るホール的なバンドと表面準位と推定される構造が観測され、さらに秩序相においてのみ幅の狭いバンドが観測された。後者の構造は、温度を下げるに従い信号強度が増加する振る舞いが見られ、相転移に伴う電子状態の変化である事が分かった。先行研究とホール的なバンドが作るフェルミ面の形状から、紫外レーザーのデータはZ点近傍の電子状態を反映している事が分かり、(001)方向にブリルアンゾーンの折りたたみが存在するという秩序ベクトルに関係する重要な情報を与えた。 (2)前項で述べた幅の狭いバンドの起源を理解するために、Rhドープした試料における角度分解光電子分光測定を行った。Rhをドープすることで隠れた秩序相が抑制され、約3%のRhドープで秩序がほぼ完全に消失することが知られている。本研究ではRhを3%ドープした単結晶試料を実験に用いて、ノンドープ試料のデータと比較した。ノンドープ試料で観測されたホール的なバンドと表面準位はRhドープ試料でも同様に観測され、ホール的なバンドが作るフェルミ面の形状にも大きな違いは見られなかった。しかしながら、測定温度範囲においてフェルミ準位近傍に新たな構造が現れる事は観測されなかった。この実験事実はノンドープ試料で観測された幅の狭いバンドが、隠れた秩序と直接関係していることを支持する。
|