研究概要 |
本研究はジョン・フォード映画の男性表象の特異性を追究するものであるが、そのさいの特徴は大きく二つある。第一に、男性表象を事物表象や風景表象との関連から広範囲に分析していること。第二に、ジェンダーの問題を人種やナショナリズムの問題と結びつけて複合的に考察していることである。採用二年度目にあたる本年度は20世紀アメリカ文化の精華にして、フォードがもっとも得意としたジャンルである西部劇に照準をしぼり、その風景表象と人種表象をジェンダーの視点から再検討したうえで、フォード西部劇のジャンル論的な再定位をおこなった。その主だった研究成果については、フォード作品中、アメリカ映画史上屈指の名作と誉れ高い『捜索者』(The Searchers, 1956)の作品論として再整理したうえで、"John Ford's Monument Valley Revisited : A New Perspective on the Quintessential American Landscape in The Searchers"という題目のもと一遍の英語論文としてまとめ、日本映画学会機関紙『映画研究』に発表した。本稿の主張はつぎの二点にまとめられる。第一に、本作中、フォードが演出上の創意工夫によって、アメリカの象徴的風景たるモニュメント・ヴァレーを、岩石砂漠と言うよりは多島海と言うべき、めまぐるしく表情の変化する流動的空間に仕立て上げていること。第二に、本作ではそうした風景の揺らめきが、そこを生きる男性身体の人種的同一性の揺らめきと、物語の各段階において精妙に呼応していることである。身体表象と風景表象、またジェンダーと人種の交錯地点からフォードの代表作の読み直しを実践できたことは本年度の特筆すべき成果であった。次年度はこの成果を糧として、こうした広義のジェンダー研究の考察範囲を、西部劇以外のフォード映画、ひいてはフォードの周辺作家の映画にまで拡大したい。
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