研究概要 |
本年度は,昨年度に確立したFISH法と微小電極の技術を用いて,微生物の種類・分布・代謝活動がストロマトライトや鉄堆積物の形成に与える影響を詳細に明らかにした. まず,岡山県新見市の淡水成ストロマトライト試料を用いて室内において微小電極測定を行い,水化学組成の変化(特にpH,溶存無機炭素濃度カルシウム濃度,イオン強度)がストロマトライト形成に及ぼす影響を見積もった.これには新しく開発した二酸化炭素微小電極も用い,光合成の影響を詳細に評価した.これら実測結果をシミュレーション計算と比較したところ,光合成によってストロマトライト形成が起きうる水化学組成は,特定のpH・溶存無機炭素濃度と十分に高いカルシウム濃度であることが判明した.今後この知見を応用することで,ストロマトライトなど微生物炭酸塩が形成された先カンブリア紀の海水化学組成を推定することが可能になると期待される.この成果は論文としてGeochimica et Cosmochimica Actaに投稿中である. 次に,秋田県小坂町奥奥八九郎温泉・大分県竹田市長湯温泉・島根県太田市三瓶温泉のストロマトライト・鉄堆積場において,野外における微小電極測定やFISH法によって微生物組成・微生物代謝とストロマトライト・鉄堆積物形成の関係を調べた。その結果,これらの堆積物形成に微生物の代謝活動が大きく関与していることが判明した.特に奥奥八九郎温泉では還元的環境下でシアノバクテリアが光合成をおこなうことで縞状鉄堆積物が形成されており,先カンブリア紀における縞状鉄鉱床の形成機構を知るうえで重要であることが明らかになった.以上の結果は地球惑星科学連合大会(千葉)・地質学会西日本支部(広島)において成果発表を行っており,また論文として投稿する準備も行っている.
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