平成21年度の主な研究実績は、フィールドワーク、学会発表(理論的考察)、翻訳の三点である。 フィールドワークは、当初アメリカ等を予定していたが、メディアアートおよびヴィデオアートの基本的な作品およびそれらの最新の動向を押さえることが必要と判断したため、採用二年次の計画を先行させた。具体的には、これらの基本作品を所蔵している美術館ZKM(カールスルーエ、ドイツ)を中心とした作品・文献調査と、最新のテクノロジーを利用したアートの動向が反映されるフェスティヴァル「アルス・エレクトロニカ」(リンツ、オーストリア)への参加である。これらのフィールドワーク(フェスティヴァルおよび美術館調査)の研究成果は、最先端の動向(作品・理論)の把握、人的交流、芸術作品(主にメディアアート作品)の調査、日本国内では入手困難であった資料の収集である。また、帰国後、京都大学でフィールドワークの報告会を行った。 理論的考察に関しては、ヴィデオアート、メディアアート受容史の言説分析を中心に行った。特にヴィデオ(アート)を論じるのに重要であるロザリンド・クラウスの論文「ヴィデオ:ナルシシズムの美学」を取り上げ発表を行った。発表では、その読解を通してメディアアートを論じるための同期/非同期、フィードバックといった時間論的概念を導きだした。また、1960年代、70年代のヴィデオアートには身体に焦点を当てた作品が数多く制作された。こうした身体に関する問題を論じるための理論的準備として、ドゥルーズの「身体のどもり」という概念に注目し、学会発表でドゥルーズのテキストを読解し理論的射程を明らかにした。現在はこの概念を具体的な作品への応用を検討中である。 翻訳は、メディア考古学に関する英語論文と、スイスと日本の視覚教育を比較検討した英語論文の二本を行った。いずれも、視覚文化論、メディア論などの基礎論文となると考えられる。
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