アクトミオシン運動はミオシンの構造変化によって一般的に説明されるが、アクチンフィラメント側の構造変化も重要であることが示唆されている。また、アクチンの構造変化はミオシンの結合していないサブユニットにまで伝播する協同性についても報告されているが、ミオシン運動との関連については分かっていない。そこで、協同的構造変化を抑制する変異アクチンを同定し、in vitroで詳細に解析することで、ミオシン運動に対するアクチンの協同的構造変化の関与を調べることにした。協同的構造変化を抑制する変異アクチンは、優性阻害の性質を示すと予想される。そこでまず、グリシンスキャニング法に基づいた変異導入と、酵母による優性阻害型変異アクチンの同定を行った。グリシンスキャニング法では、蛋白質の構造変化に重要であるグリシン残基を個々に、または適宜クラスター化して網羅的にバリン残基に置換することから、本来起こるべき構造変化が抑制された変異アクチンが得られることが期待された。このスキャニング法により得られた変異アクチンのプラスミドシリーズを、個々に野生型酵母細胞に形質転換し、優性致死の表現型に基づいて6種の優性阻害型変異アクチンを同定した。このうち、146番目のグリシン残基がバリン残基に置換された変異アクチンの詳細な解析を行った。Gly146はアクチン分子を構成する二つの大きなドメインの付け根に位置し、これらのドメインは相対的な位置関係が変化することが報告されている。そのため、Gly146がこれらの構造変化の際、ヒンジとして機能している可能性が考えられた。G146Vフィラメントを用いて運動アッセイを行ったところ、ミオシンIIに対する運動活性が著しく低下しており、また、力測定の結果、力発生能も低下していた。現在は、G146Vアクチンの構造変化とミオシンIIに対する運動阻害機構との関連について研究を進めている。
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