研究概要 |
蝸牛神経核(cochlear nucleus, CN)は、聴覚情報が内耳蝸牛から大脳皮質聴覚野へと伝わる過程において中枢神経系伝達経路のエントリーポイントとなる神経核であり、哺乳類の聴覚にとって重要な領域である。蝸牛神経核は実に10種類以上もの異なる種類の神経細胞を含んでおり、それらの神経細胞は、投射様式、細胞の形態、位置、ニューロトランスミッターサブタイプなど、それぞれ特殊なものであるということが知られている。例えば、Fusiform cell layer(FCL)層に位置するFusiform細胞は、紡錘形をしたグルタミン酸作動性の興奮性神経細胞であり、下丘へと投射する。同じくFCL層に位置するCartwheel細胞は、介在性のグリシン作動性抑制性神経細胞であり、Fusiform細胞や他のCartwheel細胞へと抑制性のシナプスを形成している。しかしながら、これら蝸牛神経核を構成する多様な神経細胞群が生み出される正確な位置と、発生の分子機構についてはほとんど知られていなかった。 本研究者は、蝸牛神経核を構成する主要な抑制性神経細胞および興奮性神経細胞が、中央部後脳のPtflaおよびAtohlを発現する神経上皮からそれぞれ生み出されること、そしてその発生にPtflaおよびAtohlが関与していることを見出し、その研究内容を2009年6月に論文として発表した。(Fujiyama et al., Development.2009 Jun;136(12):2049-58) ヒトの中枢性難聴の原因は様々であるが、PtflaやMathlが原因遺伝子である可能性があり(実際にMathl遺伝子に変異を持つマウスでは蝸牛神経核の発生および聴覚に異常が起きることが知られている。)、本研究がヒト難聴などの病態解明の手がかりになりうることが期待される。
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