発光性有機化合物は有機エレクトロルミネッセンス素子などの光学デバイスだけでなく化学センシング・バイオセンシングデバイスへの応用面でも注目を集めている。特に、複雑な生命機構を明らかにするために必要な生体組織内での高感度センシングにおいては、ストークスシフトが大きく長波長発光を示す材料が有用である。そこで、本研究では上記の特徴を有するリン光発光や分子会合体による発光を固体中で外部刺激的に変化する系を構築することを目的とした。 多種多様な材料を構築するために、発光団を有するスルホン酸と様々なアミンとの複合体(有機塩)の結晶を作製した。アントラセンジスルホン酸とトリフェニルメチルアミンの有機塩の結晶は、嵩高いアミンが与える大きな空間に様々な溶媒分子(ハロゲン化合物や芳香族化合物、エステル、ニトリル等)を包接し、蒸気暴露により包接された溶媒分子の交換が可能であった。有機塩が形成する分子集合様式は包接分子によらず全てアントラセンの二量体構造をとっていたが、その発光色調は青緑色(λ_<max>=460nm)から黄色(λ_<max>=570nm)へと包接分子に応じて大きく変化した。これはアントラセンのダイマー発光は周りの分子に大きく影響を受けることを示している。一方、アントラセンジスルホン酸と2-アミノペンタンの有機塩結晶に圧力を印加すると、空間群がP2_1/nからP2_1への相転移が起こり、アントラセンの不斉配列が誘起された。その結果、発光色調が黄色から緑色、発光量子効率が2%から35%へと大きく変調した。 このように、本年度の研究では分子会合体からの発光を化学・物理刺激によって大きく変調させることができた。特に発光団の二量体構造によるダイマー発光は近傍の分子に対し敏感であることから、新しいセンシングシステムへの応用に期待できる。
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