研究概要 |
本研究では、分子集合体からの発光機序に関して理解を深め、外部刺激に応答して発光変調する新規なセンシングシステムを創製することを目的とした。分子集合体の発光は分子配列に依存するため、分子配列が外部刺激に応じて変化する系を構築できれば、発光変調から刺激を検知することが可能となる。そこで、有機塩を用いた超分子的な手法により発光性分子の配列を制御し、刺激応答的な配列・発光変調に適した系を設計・構築した。 まず、発光変調に適切な分子配列を検討するために、アントラセン-1,5-ジスルホン酸を様々な脂肪族アミンと塩形成させた。結晶中で多様なアントラセン配列が得られ、アントラセンの孤立配列は青色発光を示すのに対し、end-to-face配向の二次元配列はエキシマー発光による緑色発光を、また、レンガ壁様のπスタック型一次元配列は励起オリゴマー発光による黄色発光を示すことがわかった。このように、πスタック配列の制御が発光変調において鍵となることが示唆された。 そこで、配列変化に基づくセンシングシステムの創製のために、以下のようにπスタック型の高包接性超分子を設計・構築した。トリフェニルメチルアミン(TPMA)とスルホン酸が形成するナノクラスターに着目し、TPMAをアントラセン-1,8-ジスルホン酸と塩形成させた。得られたクラスターはアントラセン部位のπスタックにより連結され、高包接性の超分子ビーズを構築した。そのπスタック配列は包接分子に応じて変化し、発光色が青緑から橙まで幅広く変調した。さらに、これら包接結晶は化学・光・圧力刺激に応答して可逆的に配列・発光を変化させた。例えば、紫外光照射によってアントラセン部位の光二量化反応やその逆反応が起こり、配列・発光変調を引き起こした。一方で、ハロゲン化合物の包接結晶は光応答性を示さなかったことから、この超分子設計は内分泌撹乱物質に見られるようなハロゲン化合物のセンシングシステムへの応用が期待できる。
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