研究概要 |
本年度は,それぞれ別個に開発されていた広帯域レーダ,広帯域干渉計を統合・連動させた広帯域レーダシステムによる観測を8月および9月に鹿児島県種子島にて実施した.開発した広帯域レーダシステムは,広帯域レーダによる観測結果とレーダ観測終了時間から過去10分間にかけて広帯域干渉計で観測された雷放電路の三次元標定結果を同時に描画し,雷嵐の状況をナウキャストで把握するものである.本システムを降雨時に運用したとき,電磁波放射源の集中している領域が降雨領域と共に西から東へ移動する様子が実時間で見て取れるため,雷嵐の現況把握に大変有効であると考えられる.40dBZを超える発達した降雨域がある雷嵐の観測事例について,同一雷嵐とされる発達した降雨域群であっても,雷放電によるVHF帯インパルス性電磁波を伴う降雨域と伴わない降雨域が検出された.VHF帯インパルス性電磁波が検出されないということは,雷放電を発生させる,もしくは放電路が進展するのに十分な量の電荷が空間に存在していないことを示しており,雷嵐内電荷分布の詳細な推定が雷嵐活動の理解に必要であることを示している.また,岐阜県での夏季雷観測により,夏季正極性落雷のうち25%が双方向性リーダを伴っており,広帯域干渉計で正極性落雷の放電開始点を明らかにすることが可能となった.現在,雷放電毎に放電開始前後の降水構造の微細な変化について解析を行っている. モデル構築の面では,気象庁が開発した非静力学モデルを導入するための環境整備とモデル動作の為の技術習得を実施した.そして,非静力学モデルに雷嵐の特徴である電気的活動を表現するため,雷嵐内の霰と氷晶の衝突回数から発達する雷嵐で生成される電荷の空間分布を推定した.今後は放電過程導入から高精度の雷嵐内電荷分布推定を行い,広帯域レーダシステムからシビア現象の予測可能性について検討を行う.
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