当該年度は、2008年に東京工業大学の細野研究室で発見された鉄系超伝導体の超伝導ギャップ構造の研究を、磁場侵入長測定という準粒子の低エネルギー励起に非常に敏感なプローブを用いて詳細に行った。本研究員は非常に小さな単結晶試料においても磁場侵入長測定が可能なマイクロ波空洞共振器摂動法を用いて、電子ドープされた鉄系超伝導体PrFeAS01-x(TC=38K)及びホールドープされた鉄系超伝導体Ba1-xKxFe2As2(Tc=35K)単結晶の磁場侵入長の温度依存性を1.5Kの低温まで行い、この系では超伝導ギャップにノードが存在しないフルギャップ超伝導状態が実現していることを明らかにした。特に、PrFeAs01-x単結晶におけるこの結果は、鉄系超伝導体における単結晶試料を用いた超伝導対称性に関する初めての研究報告である。またホールドープ系のBa1-xKxFe2As2単結晶においては不純物濃度の異なる試料の磁場侵入長測定を行い、不純物濃度が増えるにつれて磁場侵入長の温度依存性が熱活性型からべき乗へと変化することを明らかにした。さらに本研究課題であるトンネルダイオード発振器を用いて母物質BaFe2As2のAsサイトをAsと同価電子数であるPで置換したノンキャリアな系に属する鉄系超伝導体BaFe2(As1-xPx)2単結晶(Tc=30K)の極低温下(~100mK)における磁場侵入長測定を行った。その結果、この系では先に述べたホール・電子ドープ系とは異なり、磁場侵入長が低温で温度に比例した振る舞いを示すことを明らかにした。これは超伝導ギャップにラインノードをもつ超伝導体における準粒子の低エネルギー励起に特徴的な振る舞いであり、本研究員はP置換系では超伝導ギャップにノードが存在することを明らかにした。
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