研究概要 |
当該年度はキャリアがドープされていない系に属する鉄系超伝導体BaFe_2(As_<1-x>P_x)2の磁場侵入長測定を100mKの極低温まで行った。特に最適ドープ域(T_c=30K,x=0.33)において、ホール・電子ドープ系とは異なり、磁場侵入長が低温で温度に比例した振る舞いを示すことを明らかにした。このような振る舞いは超伝導ギャップにラインノードをもつ超伝導体における準粒子の低エネルギー励起に特徴的な振る舞いであり、P置換系では他の系と異なり、超伝導ギャップにノードが存在することを強く示唆する結果を得た。さらに、この系に存在するラインノードがどのフェルミ面に位置するのか、またギャップ構造のドープ依存性を系統的に調べるため、幅広いドープ域において詳細な磁場侵入長測定を行った。その結果、この系ではノード構造がどのドープ領域においても存在することを明らかにした。これは、ごく最近当研究室において論文発表された熱伝導率の磁場中角度回転の結果から示唆されている電子面に存在するループ状の超伝導ギャップ構造とコンシステントであり、鉄系超伝導体のギャップ構造、さらにはその超伝導発現機構を解き明かすうえで、非常に大きな知見を与える可能がある。また、ホールドープ系のエンドマテリアルであるKFe_2As_2(T_c=4K)の磁場侵入長測定も行った。この系ではホールドープによりM点周りの電子面が完全に消失し、代わりに非常に小さなホール面が出現しており、他の鉄系超伝導体とは電子構造が全く異なる。にもかかわらず超伝導が発現しており、その超伝導対称性に非常に多くの興味が注がれている。本研究員は磁場侵入長測定から、この系では、Γ点周りのホール面にノードが存在することを明らかにした。
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