研究概要 |
近年、有機フッ素化合物の重要性が高まっている。フッ素原子は、比較的小さい原子サイズであると同時に極めて高い電子吸引性を示すなど、ユニークな性質を有している。実際に、フッ素を導入した様々な有機材料や医薬、農薬が開発されており、今後もさらなる進歩が見込まれる。一方、1-アザジエン誘導体(α,β-不飽和イミン、R^1N=C(R^2)-C(R^3)=C(R^4)(R^5))は窒素元素を有する様々な化合物へと誘導することが可能であり、合成化学的に有用な試薬である。例えば、1,2-付加及びマイケル付加の受容体やDiels-Alder反応に用いることが出来る。この1-アザブタジエンにフッ素原子やCF_3基などのフッ化炭素官能基を導入することにより、様々なフッ素官能基を有する窒素化合物を構築することが出来ると考えられるが、フッ素官能基やフッ化炭素官能基などの種々の官能基を有する1-アザジエンを合成する方法はこれまであまり知られていない。 私はこれまでに遷移金属触媒による炭素-硫黄結合のアルキンへの位置選択的付加反応を開発している。本研究では、CF_3基をイミン炭素上に有するイミノスルフィド(CF_3C(=NR^1)SR^2)を合成し、パラジウム触媒存在下、イミン炭素-硫黄結合の切断を伴ったアルキンへの位置、立体選択的付加反応の開発に成功した。この手法により、代表的なフッ化炭素官能基であるCF_3基を有する1-アザジエン誘導体を効率よく得ることが可能となる。また、本手法を利用しフッ素、窒素官能基を有するフランの合成法も見出している。今回使用したイミノスルフィドについて、フッ化炭素官能基はCF_3基に限定されているが、これをフッ素原子や他のフッ化炭素官能基(例えば、C_3F_7、C_6F_5)に変えることにより、多様なフッ素官能基を有する1-アザジエンが構築できると期待できる。
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