近年、タンパク質を自由自在に集積化させ、得られる集合体を高触媒活性膜や薬物輸送などの生体材料として利用する試みが注目を集めている。しかしながら、タンパク質を集積化させる手法はまだ確立されておらず、機能を持つ集合体となると、ほとんど報告例がないというのが現状である。そこで我々は潜在的に機能を有するヘムタンパク質に着目し、以前に、ヘムとタンパク質マトリクスの特異的な相互作用を利用したヘムタンパク質の集積化に成功し、タンパク質集合体構築法の手法の一つとして提案している。 本申請者は、本年度、タンパク質集合体の機能化をめざして、酸素貯蔵ヘムタンパク質であるミオグロビンを素材とし、その集合体の構築を試みた。以前に取り組んだヘムタンパク質に比べ、ミオグロビンは機能的に魅力のあるタンパク質である。結果として、ミオグロビンを単量体とする数百ナノメートル程(100量体程)の直鎖状集合体の構築に成功した。さらに本来の機能である酸素の貯蔵能について評価したところ、天然のミオグロビンの酸素貯蔵能を維持していることが明らかとなった。この機能の維持と適度なサイズは、人工血液としての可能性を示唆するものである。一方で、一酸化炭素やシアン化物イオンなどの小分子により集合体の構造を安定化させることができることも明らかとなり、薬物輸送などを実現する刺激応答性マテリアルへの展開も期待することができる。今後、この集合体を基盤とした実用的な生体材料の開発およびより高次のタンパク質集合体構築に向けて研究を進める予定である。
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