研究概要 |
ヒトの骨格は,体重や運動などによる外的荷重を支持するため,強固で最適な骨組織・構造を有する.このような骨組織には,外的負荷に応じて内部に応力が生じる.骨組織に大きな応力が作用すると骨折のリスクが高まる.骨折の予防や防止には骨組織内部の応力を知ることが重要である.骨組織に作用する応力には,重力による静的応力,運動等により繰り返し作用する動的応力がある.また,生体組織特有の応力として,骨組織のリモデリングや骨修復時に骨細胞を活性化させる内在応力が存在する.これまでに無負荷時でも骨組織内部に残留応力があることが報告された.骨組織に内在するこれらの応力が測定できれば,骨リモデリングや骨折の治癒過程といった骨疾患の診断・治療に対して有益な生体内情報が提供される.本研究は,X線回折法を用いて骨組織に内在する残留応力を測定しそのメカニズムを明らかにすることを目的とし,さらにより簡便に測定する手法の開発を目的としている.3年計画のうち,2年目に当たる今年度は,皮質骨階層構造特性と残留応力,組織レベルの弾性率の関係,および皮質骨深層部の残留応力分布測定法に着目し,以下の項目を実施した.1)家兎四肢骨幹表層において,残留応力値とオステオン密度を比較した結果,両者に正の相関があることを確認した.残留応力が,皮質骨階層構造特性と関係があることが明らかになった.2)ウシ大腿骨骨幹皮質骨より短冊状試験片を採取し,皮質骨階層構造特性と組織レベルの弾性率の関係を調査した.その結果,皮質骨横断面に占めるオステオン面積比,HAp結晶c軸の骨軸方向配向度と弾性率に相関が認められた.3)大型放射光施設SPring-8の共用ビームラインBL28B2で得られるシンクロトロン放射光白色X線を用いて,ウシ大腿骨骨幹皮質骨の残留応力分布を測定した.その結果,骨幹外周表層に引張残留応力が,皮質骨深層部に圧縮残留応力が認められた.
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