本年度は、ヒッグス粒子がボトムクォーク対に崩壊する過程に主眼を置き研究を行った。特に、使用されていない事象トリガーアルゴリズムの使用、新しいボトムクォーク起源のジェット同定アルゴリズムの使用、ボトムクォーク起源ジェットのエネルギー分解能向上の研究、多変量解析手法を用いた信号から背景事象分離の研究を行った。 現在までの研究では、主に高運動量レプトントリガーを使用しているが、それらに加えて消失運動量を用いたトリガーを併用し、20%以上の信号数向上に成功し、発見感度の向上につながった。また、ボトムクォークジェット(b-ジェット)の同定アルゴリズムとして、3種類のアルゴリズム(一時崩壊点と二次崩壊点の距離を利用する方法、粒子飛跡と一時崩壊点の距離を利用する方法、ニューラルネットワークを利用する方法)の併用について研究を行った。特に、ニューラルネットワークを用いた多変量解析手法により、b-ジェット特有の性質を利用して同定効率の向上を行った。結果、発見感度を10%程度向上させることに成功した。また、H->bb過程において、最も信号を特徴づける運動学的性質はボトムクォーク対の不変質量分布である。その分解能向上は、発見感度の向上に直接つながる。本研究では、ニューラルネットワークを用いたb-ジェットのエネルギー分解能向上に取り組み、ヒッグス粒子の不変質量分布の分解能を4%程度改善することができた。また、多変量解析の導入により、不変質量分布を含む信号または主な背景事象に特有な運動学的性質を示す複数の物理量を用い、信号と背景事象の分離を行った。多数の組み合わせ中から最も発見感度を向上させるような最適化を行った。 以上について本年度中に完成し、ヒッグス粒子発見感度を先行研究と比較して、15%の向上に成功し、ヒッグス粒子の早期発見に寄与すると考える。
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