まず今年度の初めはランダムに配置された障害物中ののBrown運動について、配置を固定した場合の生存確率の漸近挙動を決定する統一的かつ見通しの良い論法を発見し、昨年度考案したFrenkel欠陥のモデルへの応用を含む形でまとめ学術誌に発表した。より具体的にはこれまで配置について平均した生存確率との関連で議論されることの多かったランダムシュレディンガー作用素のスペクトルに関するLifshitz tail effectと呼ばれる現象が、配置を固定した場合の解析にも有効に使えることを発見した。その議論の要点はこれまで確率論的な議論のみによって行われていた部分をランダムシュレディンガー作用素の研究で用いられていた関数解析的な評価に置き換えることであり、両分野の手法を組み合わせることの有効性を示した意味でも重要であると考えられる。 次にライプチヒ大学のKoenig教授と共同で、無限レンジを持つポテンシャルをPoisson配置した媒質中のBrown運動について生存確率の漸近挙動を研究した。このモデルは1977年にPasturによって研究され生存確率の一次の漸近挙動は決定されているが、それは拡散係数には依存していないことが知られており、従ってBrown運動がランダムポテンシャルから受ける影響はそこからは読み取れないことが分かっている。そこで更に解析を進めて実際に二次までの漸近挙動を決定し、生存するように条件づけたBrown運動の挙動についても具体的な予想を得るに至った。この研究に関する論文は現在準備中である。
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