ローマを拠点に活躍したフランス人画家プッサンの物語画の特質を明らかにする本研究の第2年次は、17世紀前半に当地で人気を博した旧約聖書のダヴィデを主題とする諸作品に着目し、プッサンによる《ダヴィデの勝利》(マドリード、プラド美術館)と《ダヴィデの凱旋》(ロンドン、ダリッジ美術館)の分析を行った。1630年前後に描かれた前者は「ゴリアテの首を見つめる青年ダヴィデ」というバロック期に流行していた図像に、勝利の擬人像や樫の葉の冠、戦勝記念を意味する武具等の古典古代と関連する諸要素が組み合わされ、重層的な意味合いと絵画的魅力との双方を備えた格調高い寓意画となっていた。1631-32年頃に制作された後者では、画家がギージやハレの版画に見られるモティーフに加え、ドメニキーノのフレスコ画《聖アンデレの鞭打ち》(ローマ、サン・グレゴリオ聖堂)の構図に示唆を得て画中の舞台を設え、多様な身振りをとる群衆を配して「ダヴィデの凱旋」の場面を雄弁に語らんとしたことが判明し、両作品の比較を通して、1630年前半の画家の制作態度の変遷を浮彫にすることができた。 さらに本研究の進展のため10月中旬より拠点をパリに移し、作品の帰属及び制作年代を確実に判断する鑑識眼を養うべく作品を数多く実見し、基礎的な文献調査を進めた。またロンドンのナショナル・ギャラリーにて初年度に扱った《羊飼いの礼拝》(ロンドン、ナショナル・ギャラリー)と《黄金の子牛の礼拝》(同上)の追加調査を行い、ウォーバーグ研究所では関連図像と16~17世紀に刊行された挿絵本や図像集を参照し、研究の精度を高めた。 以上、個々の事例研究における同時代作品との比較から、プッサンが当時の筆頭画家たちによる先行作例に対し、自作をいかに特徴づけようとしていたのか、図像学的観点及び絵画表現の点から具体的に解明でき、今後、寓意画及び物語画の構造について、理論的側面から検討する足掛かりが得られた。
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