研究概要 |
本研究では,物理法則を拘束条件として,観測可能な物理量の情報を海面状態の情報へと転嫁するアジョイント法と呼ばれる手法によって,大気海洋間の単位面積単位時間当たりの運動量および熱のやりとり(以下,海面フラックスと呼ぶ)の定量的評価とマッピングを行い,台風システムの状態推定及び予測の改善を目的としている。平成21年度には,研究計画通り,まず,台風直下の温度変化をシミュレーションするための海洋モデルを作成し,Kerry Emanuel博士(マサチューセッツ工科大学)のご厚意により頂いた数値シミュレーション用の大気モデルに結合した。そして,結合されたシステムの情報伝搬に関する方程式を導出し,海面フラックスの推定を行うシステムを構築した。このシステムについては,韓国の済州島で開催された北西太平洋における熱帯低気圧海洋相互作用に関する国際ワークショップなどにおいて概要を説明した。その後,現実に存在する航空機観測の観測データ量から推定が可能であることを確かめ,同時に,そのような推定を行うことによって,従来手法に比べて,台風の強度及び最大風速半径に関する数値シミュレーションの再現性能が向上することを明らかにした。このような推定手法としてのアプローチは世界的に見ても類をみないものであり,本研究の意義は非常に大きいものであった。そこで,これらの成果については,Japan-China-Korea Joint Conference on Meteorologyなどで口頭発表による報告を行ったのち,国際誌"Scientific Online Letters on the Atmosphere"に論文として投稿した(2010年1月7日受理)。
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