現在、B型肝炎ウイルス(HBV)が効率的に感染をする有用な細胞株がなく、ウイルスの生活環を再現出来ない。初代ヒト肝細胞においても、経時的に感染感受性が失われることから、細胞が組織化されていることが感染感受性の持続に必要であると考えられた。本研究課題の達成には、正常肝細胞での感染実験が必要である。そのため、1年目の計画では、正常肝細胞の3次元培養システムの樹立を目指した。培養システムとしては、初代培養肝細胞もしくは不死化した正常肝細胞株を遠心により中空糸内に充填し、無血清培で培養する方法を採用した。これにより、約1ヶ月にわたる培養を可能とし、単層培養と比べてアルブミンや薬物代謝酵素であるシトクロムP450の発現上昇とその持続を確認した。中空糸への細胞充填と培養により、同一細胞であっても単層培養とは異なる性質が生じることを確認した。いくつかのヘパトーマ由来の細胞株では感染感受性が低下していたが、正常肝細胞であるHuS-E/2株では3次元化でより感染感受性が増し、単層培養では見られなかった高いレベルでのウイルス量と抗原量を検出した。この細胞は不死化されているため、持続的な使用が可能で初代培養ヒト肝細胞に比べて安価でもあることから、基礎研究に適している。このシステムから産生されたウイルスも感染性を有することが確認でき、複製の過程がin vitroで再現されていると考えられた。抗ウイルス薬に対しても反応性を示していることから、単層培養と比べてより生体に近いレベルでのin vitroの薬剤スクリーニングが可能となる。 今回樹立した実験系は、正常肝細胞を使用しHBVの長期持続感染をin vitroで可能とした新規性と重要性の高いシステムである。この系は本研究課題を進める上で有用性が高く、正常肝細胞での解析を可能とするものである。以上より、第一年度目での研究成果としてはその目的を達したと言える。
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