研究課題
近年の疫学研究から、細胞に感染後、ウイルスの転写およびゲノム複製活性の違いを一因として、インフルエンザウイルスの病原性や宿主域が規定されることが議論されている。インフルエンザウイルスゲノムの複製反応は宿主因子への依存性が高く、精製したウイルスポリメラーゼのみでは、試験管内においてゲノム複製反応は再現されない。そこで本研究では、インフルエンザウイルスゲノム複製の分子機構の解明、および、その反応を支える宿主およびウイルス由来の因子の同定を目的とし、インフルエンザウイルスの細胞特異性および宿主域の理解に資することを目的とした。これまでに試験管内ウイルスゲノム複製反応を促進する宿主因子として、IREF-1/MCM複合体を同定した。また、ウイルスゲノムに結合し、Ribonucleoprotein(RNP)複合体の形成に必須であるウイルスタンパク質NPによっても、ウイルスゲノム複製は促進され、NPのシャペロン分子として機能する宿主由来のスプライシング関連因子であるRAF-2p48/UAP56が必要であることを明らかにした。また、複製後のウイルスゲノムは、細胞核内から細胞質へと輸送され、細胞膜の頂端面から出芽するが、その詳細な輸送機構は不明であった。NocodazoleおよびBrefeldin Aなどの阻害剤を添加し、感染細胞内のウイルスゲノムをfiuorescence in situ hybridization(FISH)法により可視化したところ、微小管依存的に小胞輸送を介した経路により、ウイルスゲノムは能動輸送されていることを明らかにした(Microbes Infect.,2010)。さらに、本研究課題では、決定したウイルスRNAポリメラーゼの結晶構造を基に、in silicoスクリーニングによる抗ウイルス薬の探索を行っている。昨年度では、ウイルスポリメラーゼ複合体形成を阻害するいくつかの化合物を同定し、それら化合物の共通母核をもとに、本年度ではさらにスクリーニングを展開している最中である。
すべて 2010
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (2件)
Microbes & Infection
巻: 12 ページ: 1079-1084
Organic Letters
巻: 12 ページ: 4664-4666