まず、昨年度に引き続いて非シンプレクティック対合付きK3曲面のモジュライ空間の双有理型を研究した。そのようなモジュライ空間は総計75個あり、いずれもIV型算術商の開集合として構成されている。昨年度はすべてのモジュライが単有理的であることを証明したが、本年度はその結果を改良し、75個のうち67個が有理的であることを証明した。散在的なこれらのモジュライ空間が有理性という共通性質を持つことは、その構成からはまったく予期されなかったことであった。この結果はK3曲面のモジュライ理論および算術商の理論に進展をもたらすものである。有理性の証明は概ね各モジュライに対して個別に行われる。その前半段階では各モジュライに対して双有理的周期写像を構成した。これは幾何学的にはモジュライの一般元の標準的構成を与えたことを意味し、今後の応用が見込まれる。双有理的周期写像によってモジュライの有理性問題を不変式論的な問題に転換することができたので、証明の後半段階ではそれらの不変式論的問題を実際に解いた。証明の副産物として、非シンプレクティック対合付きK3曲面のモジュライから代数曲線のモジュライへの固定曲線を対応させる写像の双有理的構造を、多くの場合に決定することができた。 以上の研究と並行して、トリゴナル代数曲線のモジュライの双有理型も研究し、種数が奇数の場合にモジュライの有理性を証明した。種数が4で割って2余る場合はShepherd-Barron氏がモジュライの有理性を証明しており、本研究はその結果を拡張するものである。
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