研究概要 |
申請者は,うつ病における興味や喜びの喪失に注目し,これらのアンヘドニア症状について報酬・罰に対する感受性の観点から認知神経科学的検討を行うことを研究課題とした。まず,健常者を対象としたアナログ研究を行い,抑うつの高い者と低い者とで強化学習課題におけるパフォーマンスと数理モデルによる学習パラメータに差異が認められるかどうか検討した。その結果,抑うつが高い者において,報酬に対する感受性低下がみとめられ,数理モデルからは抑うつが高い者は強化歴の統合が難しいことが明らかとなった。これまで,うつ病における報酬・罰に対する感受性について,単なる報酬に対する反応性を検討した研究は多いが,本研究のように意思決定に関わる要因について検討を行った研究は少ない。強化歴の統合については時間スケールの問題も関わる可能性が考えられ,新たに遅延報酬・罰に着目した新規実験課題を作成して,健常者とうつ病患者を対象に予備検討を行った。その結果,作成した遅延報酬・罰課題は,うつ病患者において実施可能であり,遅延割引における各種効果(サインエフェクト,マグニチュードエフェクトなど)も確認することができた。現在,本実験課題を用いて,集団認知行動療法に参加しているうつ病患者を対象に治療の前後でfMRI実験を行っている。これらの研究成果より,うつ病患者の意思決定に関わる報酬・罰に対する感受性の脳内メカニズムと認知行動療法の治療作用メカニズムが明らかになることが期待される。
|