本研究は浮イネが持つ深水に対する適応性の遺伝子を単離しそのメカニズムを解明することで、どのようにして深水に適応できる水性植物になったかという、植物の環境適応性について解明し、また、東南アジアにおける洪水多発地帯で栽培されている品種の育成に寄与することを目的としている。 これまでに浮イネ性に関するQTL解析が行われた結果、第1、第3及び第12染色体に座乗する3つのQTLが検出され、このうち最も強い効果を示す第12染色体QTLの原因遺伝子を単離した。しかし、第1、第3染色体に座乗するQTLについては原因遺伝子の単離には至っていない。23年度は、これら2つの遺伝子座において高精度連鎖解析を行った。その結果、第1染色体に座乗するQTLの候補領域を約180kbに、第3染色体に座乗するQTLの候補領域を約142kbに特定した。現在、それぞれのQTLに関してポジショナル・クローニングを行い、原因遺伝子の同定を試みている。また、これまでに検出した3つのQTL領域を保持した準同質遺伝子系統NIL1-3-12の節間伸長は作出親C9285の節間伸長の約75%に達した。しかし、水位が数メートルに及ぶ地域では、より節間伸長を誘導する個体の作出が必要であると考えたため、これまでの3つの浮イネ性QTL以外の新規QTL、の探索を目的とし、新たにQTL解析を行った。その結果、早期節間伸長を制御する新規のQTLを第2、第4染色体上に検出した。これらのQTLの効果を評価するために、NIL1-3-12とC9285のBC_2F_2集団および浮イネ品種Bhaduaの組換え自殖系統(RIL)を用いて今回検出した2つのQTLの効果を検証した。その結果、これまでの3つのQTLの他に今回検出した2つのQTLを保持した個体は早期節間伸長性を示したことから、今回検出したQTLが浮イネにおける早期節間伸長を制御していると考えた。この研究による成果は、洪水の程度に合わせた深水耐性イネの作出に寄与できるものと考えた。
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