ロドプシンの活性状態が持つ特異なpH依存性をもたらすアミノ酸残基を特定するため、前年度に引き続き近縁のタンパク質である錐体視物質の活性中間体のpH依存性を解析した。前年度までにニワトリ由来緑感受性視物質(ニワトリ緑)、ニワトリ青、ニワトリ紫においてウシロドプシンと同様に脱プロトン化シップ塩基を持つ活性状態が低pHにおいて安定化されることが既に示されたため、今年度は、長波長感受性グループに属するサル緑について同様の解析を行った。このグループに属する視物質は発色団近傍に塩化物イオンが結合して波長制御することが知られており、イオン環境が中間体の性質にも影響を与えている可能性があるので、塩化物イオン結合型・硝酸イオン結合型のそれぞれについて解析した。結果、硝酸イオン結合型は他の錐体視物質と同様に脊椎動物ロドプシン型のpH依存性を示した。一方、塩化物イオン結合型においてはpH依存性が消失するという結果が得られた。つまり桿体・錐体問わず脊椎動物視物質は活性中間体は共通のpH依存性を示すが、サル緑が属するグループにおいては塩化物イオンの結合がその性質を消失させると考えられた。さらにこの結果に基づきアミノ酸配列を比較し、重要であると考えられたアミノ酸についてウシロドプシンの変異体を作製、解析を行った。結果、Trp126とPro180をそれぞれCysとLeuに置換した場合、pH依存性の消失及びGタンパク質活性化効率の低下が見られた。しかし一方で、無脊椎動物型の性質を示すことが知られるヤツメウナギパラピノプシンの対応する残基(Cys126、Leu180)をそれぞれTrp、Proに置換しても活性状態の性質やGタンパク質の活性化能に変化は見られなかったことから、この2つの残基はロドプシンの活性状態の性質を決定づけるのに必要な構成要素ではあるが、この2つだけでは十分でないと考えられた。
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