今年度、申請者は研究課題にあるペリレンビスイミドのJ会合体の安定化に取り組んだ。しかしながら、安定化を達成できるようなペリレンビスイミド分子の合成が非常に困難であり、今も尚、試行錯誤を重ねているが合成経路の確立には至っていない。今後は、適切な分子設計指針の確立が最重要である。一方ではこれらの研究過程を通じて、その達成が困難とされる、"長さミリメートルに及ぶ導電性ファイバー"および、"溶液プロセスによって形成される二次元ラメラ集合体"といったペリレンビスイミドの実用的な機能材料を構築することに成功した。申請者は、これらの材料の分子レベルでの集合構造を明らかにするだけでなく、その有機エレクトロニクス材料としての実用性についても深く検討を行った。例えば、前者はマイクロ波伝導度測定によって高い電子輸送能を持つことがわかっており、ファイバー軸に沿って、ミリメートルオーダーで電子の輸送が可能な微細な素子として、電気デバイスへの応用が期待される。一方後者は、実際に有機薄膜トランジスターの電子輸送層としてデバイスを作成して、その性能を評価したところ、移動度は低いながらもトランジスター特性を有することが明らかとなった。今後は、これらの材料の性能をさらに向上できるような、ファイバー形成条件や薄膜調製法を探索することが重要である。また電子輸送特性の向上が期待できるような分子構造を探索することも重要な研究課題となる。
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