「繁殖干渉が生態的形質置換を引き起こす」という仮説を支持する実験結果を得た。材料はナミテントウとクリサキテントウの2種である。近縁種間の相互作用によって資源利用に関わる形質が進化することは「生態的形質置換」と呼ばれる。従来は、共通の資源をめぐる競争が形質置換の駆動力であると広く考えられてきた。しかし、このモデルを支持する実証研究は非常に少ない。その代わりとして、私の研究では繁殖期における負の種間相互作用(繁殖干渉)に着目した。ナミテントウとクリサキテントウは本州においては資源分割をしている。ナミテントウはエサとしての価値の高いさまざまなアブラムシを利用するジェネラリストである。その一方、クリサキテントウは松類(アカマツおよびクロマツ)に寄生するマツオオアブラムシだけを食べるスペシャリストである。マツオオアブラムシはアブラムシにしては歩行するのが速いので、体サイズの小さいテントウムシの孵化幼虫にとっては捕まえにくい資源である。クリサキテントウでは母親が大きい卵を産み、かつ卵塊内の栄養卵の割合を高めることでマツオオアブラムシに適応していた。ただし、母親は子あたりの投資量を増やすことで子の数を犠牲していた。すなわち、クリサキテントウは潜在的(生理的)にはさまざまな資源を利用できるのにもかかわらず、野外では価値の低い資源のみを利用していると考えられる。実験的にクリサキテントウとナミテントウを共存させてやると、クリサキテントウの繁殖成功が一方的に減少することが分かった。つまり、繁殖干渉が生態的形質置換の一因であることが示唆された。
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