研究概要 |
本研究の目的は、「前、後ろ」「東、西、南、北」といった空間相対名詞を研究対象とし、これらを用いた空間表現の諸性質を体系的に観察及び理論的に説明をすることで、人間の空間認知と言語表現の関係の一端を明らかにすることである。この研究を通して日本語の空間認知システムおよび言語への反映の独自性を述べ、さらに他言語に同様の考察を適用することで、対照言語学的に見た空間表現の分類・整理、そして語学学習の教授法にも寄与することができると考える。平成21年度の研究実施計画と研究成果を順に説明する。実施計画(1)「虚構移動表現を含む修飾節」「相対名詞との間に程度副詞が介在する修飾節」の現象については、後者の程度副詞が介在する修飾節について主に観察を続け、程度副詞のスケール性が相対名詞の解釈に影響を与える点を新たに指摘した。次に(2)米国カリフォルニア大学バークレー校で開催される夏季講座への参加であるが、より高度で応用的な学会に参加したいという考えから、これに代わりNELS40(the 40th annual meeting of the North East Linguistic Society, at MIT)に参加し、発表者の議論から多くの知見を得た。(3)琉球語池間宮古方言の空間表現に関する対照データの収集は2010年2月10-28日に行った。池間方言話者へのインタビューから、池間方言では東西南北を表すのに「アガイ系」と「トゥラヌハ系」という2種類があることを確認し、なぜ2種類存在するかについて、新たな見解として池間島から宮古島西原地区への分村に伴う住民の認知空間環境の変化という歴史的枠組みが背景にある点を指摘した。最後に(4)空間表現に対する認知科学的実験は、数名に対する予備調査の段階にとどまった。そこでの改善点などを生かしより大規模な調査をし妥当性の高い説明をするのが来年度の目標である。
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