本研究の目的は、「前、後ろ」「東、西、南、北」といった空間相対名詞を研究対象とし、これらを用いた空間表現の諸性質を体系的に観察及び理論的に説明をすることで、人間の空間認知メカニズムと言語表現の関係の一端を明らかにすることである。今年度は研究計画のうち(1)空間相対名詞の理論言語学的アプローチ、(2)対照言語学的アプローチ、(3)琉球方言における空間表現へのアプローチを試みた。以下に順を追って報告する。 まず、(1)の空間相対名詞の名詞修飾形式の理論言語学的アプローチについては、Tromso大学のPeter Svenonius教授の提案する、"Axial Part"という概念を用いた理論モデルが日本語にも適用できるとした2011年3月3-4日にはTromso大学でPeter Svenonius教授とのミーティング、2011年3月9日には研究発表のアウトリーチを行い、同大学の研究者から有意義なコメントを得た。 続いて(2)対照言語学的アプローチは、今年度に新たに本格的に取り組んだ事項である。日本語と異なる名詞修飾構造を持つ言語に理論モデルの適用を試み中国語・アラビア語・英語・韓国語との比較について記述・分析し、最終的に日本語名詞修飾の言語個別性を主張した。 最後に(3)琉球方言における空間表現へのアプローチでは、ワークショップ等で他研究者との交流をはかるとともに前年度からの琉球語宮古池間方言の調査を継続して行いデータを収集した。今年度の調査をとおして、池間方言の特に高齢者の話者のデータからは単なる一言語の言語表現の特徴にとどまらず空間認知のメカニズムの一端を明らかにするために大きな証拠となると考えられる分析結果が得られた。今後類型論的分析にも堪えうるようなデータ収集を収集するために、空間認知に深くかかわる研究をしている教授とのミーティングを行った。
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