トリプトファン残基のイソプレニル化は、現在までのところ枯草菌のComXフェロモンにおいてのみ確認されている翻訳後修飾であり、生物界における普遍性は未だ明らかにされていない。そこで本研究は、この翻訳後修飾の生物界における分布の検証を目的とする。 具体的にはin vitro酵素反応系を用いることで修飾酵素ComQの認識するコンセンサス配列の推定を試みている。in vitro酵素反応とは、枯草菌RO-E-2株由来の修飾酵素ComQ_<RO-E-2>にComX_<RO-E-2>フェロモン前駆体およびゲラニルピロリン酸を加えインキュベートすることで、ComX_<RO-E-2>フェロモン前駆体にゲラニル基を転移させる反応である。これまでの研究により、前駆体の全長である58残基からなる[1-58]ComX_<RO-E-2>フェロモン前駆体を用いて酵素反応を行い、C末端側の7残基がゲラニル化されたペプチドをMALDI-TOF-MSで検出することに成功した。また、前駆体のN末端側のアミノ酸を削除した短鎖前駆体を複数合成し、それらを用いた酵素反応を行うことによりゲラニル修飾される最短配列の確定を試みたところ、C末端から9残基の[50-58]ComX_<RO-E-2>フェロモン前駆体を用いて酵素反応を行ったときにもゲラニル修飾されたペプチドを検出することができた。さらにLC-MSを用いた微量検出系の確立に成功し、これにより標品を用いた定量が可能になった。 前年度はLC-MSを用いた定量により、酵素反応の最適化を行った。具体的には反応時間、pH、基質比、金属イオンについて検討し、それらに加えサンプルの調製法を改善することにより、ゲラニル化されたペプチドの収率(検出効率)を飛躍的に向上させることに成功した。さらに、これまで合成した全ての短鎖前駆体についてLC-MSを用いてゲラニル化されたペプチドの収率を算出したところ、いくつかの短鎖前駆体において収率の顕著な低下がみられた。今後は最短配列の確定を試みるとともに、収率の顕著な低下がみられた前駆体配列に着目することで酵素反応において重要な配列について研究していく予定である。
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