ヒトの視覚による物体認識について、これまで知られていなかった様々な特性を発見した。 1、前年度に続く物体方向知覚(車やイスといった物体が自分に対してどちらを向いているかを視覚によって認識すること)についての研究では、物体が置かれている周囲の環境が持つ方向情報(例えば、道路や部屋の方向)が物体方向知覚に影響を与えることがわかった。物体方向知覚において、本来は物体そのものと関係のない周囲の環境の方向を無視できない傾向があるということになる。物体認識のみならず、情景認識など視覚認知研究の他分野にも影響を与える成果だと言える。 2、また、物体の見た目の好ましさがどのように形成されるのかを調べる実験研究が進行し、すでにいくつかのまとまった知見を得ることができた。例えば、家具や乗物などの製品の画像を見て、その製品の好ましさを答えてもらう実験では、たった0.1秒間見るだけ好ましさがほぼ決定されることがわかった。好ましさのような非常に複雑で高次の視覚的認知がこのように高速かつ効率的に行われていることは、驚くべき発見である。 こういった発見はいずれも、視覚物体認識が単一の物体認識神経機構によって独立に担われているという従来の考え方に変更を迫るものである。高次視覚物体認識は、他の様々な視覚認知メカニズムとの相互作用と統合的情報処理によって成立していることが裏付けられたと言える。いずれの成果も国内外で学会発表をしている。また、1の成果は英語論文として投稿、査読中である。2の成果も英語論文執筆中である。
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