本研究は、太平洋戦争期における多様な主体の「非常体制」構想とその相互関係を実証的に検討することで、危機における明治憲法の解釈と運用のあり方を総合的に解明しようとするものである。本年度は、2つの視角、すなわち1政府・軍部の戒厳研究、2「非常体制」をめぐる憲法学説の諸相から研究を進めた。 1では、防衛研究所図書館、国立国会図書館憲政資料室、国立公文書館などに赴き、史料調査を行った。これらの史料をとおして、(1)陸軍省法務局と内閣法制局における戒厳令・戒厳法の研究、(2)戒厳令に対する陸軍省軍務局と参謀本部第一部の認識、(3)太平洋戦争期において戒厳が施行されなかった理由を明らかにすることができた。この成果については、現在、「日米開戦前後における戒厳施行の模索」として、学会報告を準備中である。2では、国立国会図書館憲政資料室、皇學館大学図書館などに赴き、史料調査を行った。これらの史料をとおして、(1)憲法学者・大串兎代夫の非常大権発動論の特徴、(2)大串の非常大権発動論に対する学界・政府・軍部の反応、(3)太平洋戦争期において非常大権が発動されなかった理由を明らかにすることができた。この成果については、現在、「非常事態と帝国憲法」として、学術雑誌への投稿を準備中である。 さらに、1・2に関係する問題として、太平洋戦争に召集され、召集解除後に戒厳の施行・非常大権の発動を主張した衆議院議員・浜田尚友の動向を検討した。この成果については、現在、「「応召代議士」をめぐる前線と銃後」として、学会報告を準備中である。
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