本研究ではウイルスによるオートファジー誘導の分子機構とその意義を明らかにすることを目的として研究を行っている。今年度はRNAウイルスである麻疹ウイルスを用いて感染時にオートファジーが誘導されるかについて検討を行った。麻疹ウイルスのエントリー受容体であるSLAMを発現させたVero細胞、A549細胞に麻疹ウイルスを感染させてもLC3 punctaは形成されず、ポリオウイルスとは異なり、麻疹ウイルス感染ではオートファジーは誘導されないことが明らかとなった。ポリオウイルス感染によるオートファジー誘導にはポリオウイルス自身のタンパク質が必要であり、宿主側のRNA認識受容体は必須ではなったことから、麻疹ウイルスにはオートファジーを誘導する分子がないことが推測された。 麻疹ウイルスには野生株とワクチン株があり、野生株感染時にはI型IFNの発現誘導が抑制されるが、ワクチン株ではその発現は抑制されない。この株間の相違の原因を解明するために、我々は麻疹ウイルスにコードされるVタンパク質に注目して解析を行った。野生株由来のVタンパク質はRNA認識受容体の一つであるMDA5と結合することができたが、ワクチン株由来のVタンパク質は結合できず、MDA5の下流シグナル分子であるIRF3の活性化も抑制できなった。Vタンパク質のアミノ酸配列を比較したところ、ワクチン株には7か所変異が入っており、点変異を導入したVタンパク質を用いた解析から272番目のCys残基がMDASの結合とIRF3の活性化抑制に必要であることが明らかとなった。以上の結果から、この変異がワクチン株と野生株のI型IFNの誘導能の原因の一端を担っていると考えられた。
|