銀河系中心部の3次元構造解明の足がかりとして、硫黄の高階電離輝線と、中性鉄輝線による輝線マッピングを行い新天体の探査を行った。これらは超新星残骸の約1000万Kの高温プラズマ、および外部からの電子やX線で照らされた約10Kの巨大分子雲という、銀河系中心領域に特徴的な2大天体種をそれぞれよくトレースする。すざく衛星の優れた分光性能とバックグラウンド環境により、本年度観測した2領域から新構造を発見するとともに、奥行き方向の位置を決定した。Arches星団は銀河系中心巨大ブラックホールから30pcの近距離に位置し、かつ太陽付近の30万倍もの高密度を誇る特異な星団である。この星団の極近傍1pcを取り巻く巨大分子雲が中性鉄輝線で輝いていることが知られているが、その起源は謎であった。私はすざく衛星による高統計データから中性鉄輝線マップを作成し、これまで知られていたより遥かに広い約10pcの領域からも中性鉄輝線放射を発見した。この広域分子雲と星団極近傍の分子雲が電波分子輝線において同じ速度帯にあり、両者のX線スペクトルが酷似していることから、これらが同じ距離すなわち銀河系中心近傍にあると結論した。Tornadoはhead-tail状の非熱的電波天体で、銀河系中心の約2度西に位置する。電波の放射スペクトルや偏光の検出などは超新星残骸起源を示唆するが、形状の特異性のため高速移動するパルサー星雲説、歳差運動するX線連星からのジェット説なども提唱されてきた。すざく衛星で検出された硫黄輝線の分布は東西にのびる電波放射の両端に位置していた。このような双極的な形態は、これまでのhead-tail型の描像を打ち破る画期的結果である。さらにX線放射の熱的起源を確定したことで、パルサー風星雲説を明確に棄却した。特殊な環境での超新星爆発あるいは過去に活動的だったX線連星からのジェットが濃い分子雲などに衝突し熱化したと考えられる。熱的X線が受けた星間吸収量を精度よく決定し、これよりTornadoの距離が銀河系内しかし銀河系中心の向こう側であると結論した。この他、次期X線衛星Astro-H搭載X線CCDへの中性子バックグラウンドの実験的研究も行った。
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