本研究の目的は銀河系中心領域の3次元構造をあきらかにすることである。すざくによるX線観測は、天体からのX線放射と、それが受ける星間吸収を分離することで、天体種と奥行き位置を同時に決定する。これを可能にするのはすざく搭載X線CCD検出器XISの優れた分光性能である。X線CCDは軌道上で宇宙線粒子による損傷を受け、電荷転送効率が時間とともに劣化する。これは分高性能の劣化に直結するため、電荷転送効率を精確に較正することが必須となる。XISの較正手法はすでに確立されていたが、近年(2009年後期~)のデータを正しく補正できないことを見いだした。ゲイン・分解能の較正精度の低下は、本研究の目的にとって致命的である。そこで、5年以上におよぶすざくXISのデータを系統的に解析し直し、これまで見過ごされてきた新たな電荷転送効率の特性を2点見いだした。これを較正に取り込むことで、すざく打ち上げ前に予定されていた較正目標を再び達成することに成功した。その結果、銀河系中心方向に近い超新星残骸W28のX線スペクトルから強い再結合連続線を発見し、この残骸が再結合優勢状態にあることを明らかにした。再結合優勢プラズマは標準的な超新星残骸の進化では実現しないものであり、銀河系中心領域に特有の高密度環境がその形成に関わっている可能性があることを指摘した。 すざく以降の銀河系中心研究に向けて、次期X線衛星ASTRO-H搭載X線CCD検出器SXIの開発も継続している。SXIの特長はこれまでより3倍厚い空乏(有感)領域であり、これにより10keV付近の硬X線の感度が向上する。しかしながら、同時にこれまで問題とならなかった軌道上中性子によるバックグラウンドの増加も懸念される。申請者らはその定量評価を、Cf-252による中性子照射試験により行った。さらに、X線検出のために用いられるイベント形状判定法を応用して、X線CCDにおいて中性子とγ線イベントを判別可能であることを示した。
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