本研究の目的は銀河系中心領域の3次元構造をあきらかにすることである。すざくによるX線観測は、天体からのX線放射と、それが受ける星間吸収を分離することで、天体種と奥行き位置を同時に決定する。したがって本年度もすざくを用いて銀河系中心方向のX線探査をおこなった。その結果、銀河系中心方向の2天体、電波天体Tornadoと超新星残骸W28に関して、起源を明らかにし、奥行き一を決定することに成功した。Tornadoは渦巻き状の奇妙な電波構造をもつ。すざくはその両端に1対のプラズマ球を発見した。このプラズマ対は、温度などが互いにほぼ同じであり、星間吸収量から決めた距離も約3万6先光年と同等であることから、同一起源をもつ双子のプラズマである。さらに電波構造Tornadoとも同程度の距離であった。そこで野辺山45m望遠鏡でCO分子輝線観測をおこなったところ、双子プラズマのそれぞれに衝撃波励起されたCO分子雲が付随していることを発見した。これらから、電波放射をになう双極アウトフローが分子雲と衝突することで双子のプラズマをつくったと結論した。アウトフローの起源は、過去活動的であったブラックホール連星系からのジェットか、高速回転する大質量星の超新星爆発であろう。申請者らはこの成果を記者発表し、新聞各紙にて報道された。W28は標準進化モデルが予想しない複合形態型の空間構造をもつ奇妙な超新星残骸である。過去の観測では、このタイプとしては異常に高温な2千万度という温度をもつとされてきた。しかし申請者らはすざくの観測を用いたより正確なバックグラウンド評価により、このような高温成分がないことを初めて示した。さらに強い再結合連続線をともなう再結合優勢プラズマであることが明らかにし、その温度は5百万度程度と、複合形態型としてむしろ典型的であることを発見した。再結合優勢プラズマは通常の超新星残骸の熱的進化がつくる電離優勢プラズマの逆であり、その起源が明らかではない。そこで電離状態の元素依存性と、熱的構造の空間分布を詳細解析した。その結果、ネオン、マグネシウムおよび鉄が低い電離度であるのに対しシリコンと硫黄では高い電離度が観測された。また電離度とプラズマの温度がともに中心部で高く周辺部で低いことを示した。この結果は、大質量星がみずからの恒星風で作った高密度領域で爆発したというシナリオで説明できることを示した。
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