研究概要 |
本研究では局在スピンを含む系での化学反応を理論計算から予測できるような手法の開発を行い,金属酵素などの実在系への適用を目指している。本年度は銅二核を有するヘモシアニンの活性中心及び鉄-核を含むミオグロビン活性中心を取り上げ,理論上問題となるスピン混入誤差とハイブリッドDFTの交換-相関汎関数との関係を明らかにした。これによって反応座標や酸素分子との結合エネルギーをさらに精度良く求めることが可能となった。 次にラジカル種のような不安定分子系(局在スピン系)の化学反応を解明するにあたり、遷移状態の構造決定に必要なエネルギーの2次微分(Hessian)からスピン混入誤差を取り除いて求める新規理論の開発・プログラムの作成を行った。まず不安定分子として最も単純なメチレン分子の変角振動数,伸縮振動数を求め,開発した手法(AP-opt法)で用いた近似の妥当性を検証した。その結果,変角振動数に対するスピン混入誤差がUHFで217cm^<-1>,UB3LYPで183cm^<-1>とかなり大きいことがわかり,既存の方法に比べて信頼できる結果を与えることを示した。次にラジカル中間体を経る化学反応であるエチレンと一重項酸素による[2+2]シクロ環化反応についてこの手法を適用し,遷移状態の構造及びエネルギーに対してもスピン混入が影響することを示した。具体的にUB3LYP法で計算した補正前後における活性化エネルギーを比較すると24.0kcal/molと17.6kcal/molとスピン混入誤差が6.4kcal/mol含まれていることを定量的に不した。補正後の値は閉殻分子系のベンチマーク計算から見積もられる16.8kcal/molと良く一致しており,スピン混入誤差をエネルギー及び構造から除くことによって初めて不安定分子系の反応を議論できることを明らかにした。
|