研究概要 |
近年の地球物理学研究により,地殻の変形・応力集中・内陸地震の発生に深部流体やメルトの挙動が関与している可能性が指摘されている.しかし,地球物理学的手法では,流体を直接測り知ることが原理的に難しい.その挙動や起源を直接知る手段として,マントルや地殻を起源とし,流体に濃集しやすいとされるHeの同位体比測定が挙げられる. 近畿地方は,前弧側にありながら高いヘリウム同位体比の地点が多く存在している.これまで,その位置や成因について様々な議論が行われてきたが,未だはっきりした結論は得られていない.本年度は,それらを明らかにする試みの一つとして,紀伊半島沖熊野灘において実施された南海トラフ地震発生帯掘削計画ステージ2のExp.319にて採取された,コアおよびガス試料のヘリウム同位体比とArの同位体比を測定した. また,地震発生への深部流体の関与を考察する試みとして,2008年岩手・宮城内陸地震(M7.2)震源域周辺にて地震発生1週間後から半年毎に温泉水と温泉ガスを採集し,溶存ガス中のヘリウム同位体比およびHeとNeの含有量を測定した.その結果と2006年7月に同じ地点でサンプルを採取・測定した結果(堀口,2008)とを比較すると,多くの地点において地震発生直後に同位体比は上昇,1年後には地震発生前の値に下降する傾向がみられた.同じ地域の地球物理学研究と比較しても,震源城の地下に地震波の低速度城が認められる(岡田,2009)ことから,地球化学・地球物理学双方の研究結果は整合的であり,深部から上昇してきたマントル起源の流体が地震発生に関与した可能性を示唆している. 現在,ヘリウム同位体比の定点連続測定を予定にしており,システム開発を行っている.ヘリウム同位体比の連続観測はこれまでに事例がないため,より時間的に詳細な深部起源流体の挙動を明らかにできることが期待される。
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