珪藻は、海洋全域に生息している主要植物プランクトンで、海洋の炭素固定の約40%を担う水圏の炭素循環系において最も重要な光合成生物である。珪藻は遊泳能力を持たないため、海洋の有光層内における様々な水深で光適応しなければならない。特に、沿岸域に多く生息することから、海水の鉛直混合(海面と深層の混合)による影響を受け易い。しかし、珪藻が様々な水深間を輸送される際、どのように光適応するかを示した報告は無い。これらの点を明らかにするために、本研究では、海洋性植物プランクトンの中ゲノム解析済みのモデル中心目珪藻Thalassiosira pseudonana及び羽状目珪藻Phaeodactylum tricornutumを用いて研究を行った。本年度は、昨年度の研究で確立した珪藻からの光化学系タンパク質複合体の単離法を利用し、2種の珪藻間における光化学系の違いを見出した。結果として、2種の珪藻間では、集光アンテナタンパク質であるFCPの種類・量および特性が大きく異なる事が判明した。さらに、光化学系1における周辺集光アンテナの大きさにも差を見出す事ができた。これらの結果は、これまで珪藻研究では報告されておらず、複数の珪藻間で全く異なる光化学系システムを構築している可能性を示す初めての生化学的知見である。また、近年、緑藻を用いた研究で明らかとなった、強光適応タンパク質であるLHCSRについて調べたところ、珪藻においてもLHCSRの発現が確認でき、その局在は光化学系と結合していることが明らかとなった。これらの結果をもとに、2種の異なる珪藻間における光環境適応メカニズムの差異を、生息域(環境条件)の違いと関連づけた研究成果をまとめている。本研究では、今後の植物プランクトンの生理・生化・生態学的研究の基盤整備としての、重要な役割を担う事が出来たと考える。
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