研究概要 |
カーボンナノチューブ(CNT)は,興味深い電気的特性を持つことからナノエレクトロニクスへの応用が展開されている.その一方で,活性な表面や内部の空洞を活用したドラッグデリバリーへの応用も期待されている.ナノカプセルとしての利用を考えるならば,長くないことが要求されるが,短いCNTの生成技術の開発はほとんど行われていない.これまでに,溶液中アーク放電法をベースとしたCNT合成において,金属電極間で放電を生じさせ,スクロース溶液中から炭素を供給する方法で,長さ20nm程度の短いCNTを合成してきた.しかしながら,生成量が少ないことや生成物中に不純物が混入してしまうことなどの課題があった.本年度は,まず,炭素供給源としてのスクロース溶液の最適な濃度を見出すことを目的として,透過型電子顕微鏡観察により生成物と溶液濃度との関係を網羅的に調査した。その結果,CNT合成のために最適なスクロース溶液の濃度が1.0-2.0mol/Lであることが明らかとなった.次に,スクロース以外の糖類(グルコース,フルクトース,マルトース,ラクトース)を炭素供給源とし,上記の最適濃度で放電を行い,糖の各構造に依存して生成物に差異が生じるかを調べた.スクロース以外の糖を炭素源とした場合には,結果として,CNTが生成されないことが分かった.また,合成時の放電特性を調べるために,オシロスコープによる波形観察を行った.ところが,直流電源の制御応答性のために放電直後に200A程度の突入電流が生じた.放電回路内にインダクタを組み込むことで,これを抑制し,再現性の良い放電波形を得ることができた.突入電流を抑制させた場合に生成されたサンプルは,そうでない場合と比較して,燃焼開始温度が120%上昇したことが熱重量測定により明らかとなった.この結果は,サンプルの純度が高まったこと,および合成されるCNTの結晶性がよくなったことを示唆する.
|