研究概要 |
カーボンナノチューブ(CNT)は,バイオ医療や電子デバイス,ポリマー複合材料や量子細線といった非常に広範な分野での応用が可能であることから,有用な次世代材料の一つとして注目を集めている.これらを実現するためにはCNTの形態(長さや直径)制御が求められる--例えば,細胞レベルの薬剤カプセルとして利用するには短いものが要求される--が,現在のCNT合成技術では短さのコントロールはほとんど行われていない.これまでに,液相アーク放電をベースとして,スクロース溶液中から炭素を供給することで長さ20nm程度の短いCNTを合成してきた.しかしながら,生成量が少ないことや生成物中に不純物が混入してしまうことなどの課題があった. 本年度は,これらの問題を解決するために,まず(1)液相アーク放電法を用いたCNT合成におけるスクロース溶液濃度の最適化を行った.次に,液相プロセスは合成環境を柔軟に変化させることが可能であるから,(2)液相環境にマイクロバブルを導入し,キャビティ存在下での金属内包CNT合成に取り組んだ,さらに,「合成後の内包プロセス」の前段階として,生成されたCNTに物質を内包させるため,(3)UV照射とオゾン水浸漬によるCNTの局所酸化も試みた. 結果として,(1)スクロース溶液を炭素源としてCNT合成を行う場合,溶液濃度は薄いほうが得られるCNTの結晶度や生成量が増加することが分かった.高濃度では溶液の粘性のために放電が持続せず,CNT生成に必要な前駆体の量(スクロース分子の分解)が不十分なためであると考えられる.また,(2)キャビティ存在下では,金属微粒子のCNTへの内包効率が格段に上昇することが分かった.その理由および内包メカニズムについては現在検討中である.(3)局所酸化については特筆すべき結果は得られていないが,144時間の処理時間でCNT表面を部分的に崩壊できることが分かった. これらの結果は,本研究課題の達成のみならず,CNTの基礎科学において非常に重要な知見になると考えられる.
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