本研究では、ある脳部位の神経活動を人為的に制御した際に他の脳部位の神経活動に現れる影響を観察することでその部位間の機能的関係を明らかにし、全脳的な機能的相互作用に基づく記憶想起のメカニズムを解明することを目指している。2010年度、本研究では近年急速に発展しつつある光遺伝学的手法によってサルの特定脳部位の神経細胞群の活動に介入した際の効果を電気生理学的手法およびfunctional MRIを用いて計測するための実験システムを構築するとともに、記憶想起にかかわる局所的神経回路の情報連絡ダイナミクスの解明に取り組んだ。 まず、レンチウイルスベクターを用いたサルやラットの脳神経細胞への遺伝子の導入法を確立した。そして、新たに開発した光遺伝学的な局所的光照射と電気生理記録を可能にするプローブを用い、導入した蛍光性チャネルロドプシン遺伝子の発現を動物生存中に確認すること、および光刺激の効果を電気生理学的に計測することに成功した。またサルにおいて電気生理学的に神経活動に介入した際の全脳にわたる影響をfunctional MRIで計測することを可能にした。更に、サルにおいて多点同時電気生理記録を行うことで、記憶想起にかかわる局所的神経回路の情報連絡が認知的要求に応じてダイナミックに切り替わることを発見した。 このように2010年度は、2011年度以降サルにおいて光遺伝学的な神経活動制御とfunctional MRIを組み合わせて記憶想起に関わる広域的神経回路の動作原理の解明に迫るための重要な成果が得られた。これらの成果は学会と論文にて発表した(第11項参照)。
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