piRNAなどのsmall RNAの解析を培養細胞を用いて行う場合には(1)Argonauteおよび関連遺伝子の発現、(2)small RNAの発現、(3)small RNAの標的(トランスポゾン)の発現、の3つの条件が要求される。多くのモデル生物においてpiRNA経路でこの3つの条件を満たす培養細胞はほとんど報告されていない。しかし、カイコにはこれら3つの条件を満たし、piRNA経路が機能していると考えられる培養細胞BmN4が存在する。近年、カイコでは卵巣とBmN4で発現しているpiRNAについては報告がなされたが、piRNA経路がBmN4で機能しているか否かについての報告は無い。そこで本研究では、BmN4を用いてその標的と考えられるレトロトランスポゾンのPiwiサブファミリーによる発現制御の解析を行った。 カイコのテロメアはSARTやTRASと呼ばれるレトロトランスポゾンによって維持されており、我々はBmN4においてこれらとPiwiサブファミリー遺伝分の発現を確認した。SARTおよびTRASに対するpiRNAをデータベースを用いて検索したところ、これらに相同性のあるpiRNAが認められた。したがって、SARTおよびTRASはpiRNA経路の標的であると推測される。さらに、BmN4においてPiwiサブファミリー遺伝子のノックダウンを行ったところ、これらトランスポゾンの発現上昇が認められた。したがって、カイコ培養細胞BmN4は前述の3つの条件を満たし、さらにpiRNA経路によってテロメア特異的なレトロトランスポゾンのSARTおよびTRASを抑制していることが明らかとなった。すなわち、BmN4はpiRNA経路が機能しており、piRNA経路関連遺伝子群の解析に有用であることが示された。また、カイコPiwiサブファミリーはテロメア特異的なトランスポゾンの制御を介してテロメア長の維持に関わっていることが示唆された。
|