【研究課題1】PNAの認識能を利用した遺伝子工学ツールの拡張:当研究室で開発された人工DNAカッター(ARCUT)の実用性の検証である。ARCUTは、二本鎖DNAの望みの位置を化学的に加水分解する技術であり、次世代のバイオテクノロジーツールとして大いに貢献が期待されるものである。メダカのゲノムの一部のDNAを対象とし、その遺伝子操作について検討した。具体的には、2箇所の切断位置についてのpcPNAを設計・合成・精製を行い、4種類のpcPNAを得た。そして、メダカのゲノムDNAの一部を含む150kbp DNA vectorにそのpcPNAを作用させ、切断を確認したところ、様々な条件検討を行なっても目的断片は確認されなかった。ここまでの検討でARCUTの問題点である、切断効率の向上および非特異的切断の抑制という2つの問題点を解決しないことには、本研究の遂行は困難と判断し、新たな研究事項として、ARCUTを用いたヒトゲノムのテロメア部位の位置選択的切断に関する研究を着手することとした。これは、従来系では不可能であった1本の染色体のみのテロメア長を観察することを可能にするものである。この研究を検討すると同時に付随するテロメア関連事項に関しても研究を行なっている最中である。 【研究課題2】二本鎖DNA中の標的配列の両鎖を同時に認識する新規分子の開発:この課題に関しては、本申請直後に、本研究と非常に酷似した結果を競合相手により報告された。内容はJanus-Wedgeと呼ばれる修飾核酸塩基を有する系である。そこで申請者は、汎用性のある修飾核酸塩基を含まない通常のPNAの1本のみを用いて、任意の配列を認識できる系の構築に研究をシフトした。不安定化の原因である一本鎖部位への一本鎖結合タンパク(SSB)の結合により、複合体を安定化し、簡便かつ迅速な位置選択的認識を達成するものである。実際に汎用性のあるPNAにより、100%の効率で望みの配列を認識することに成功した。
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